原材料へのこだわり
和菓子の原材料は、小豆をはじめとした天然素材。 そのよしあしは、菓子のできあがりに影響するため、最良の原材料を安定的に確保することが重要です。 虎屋は、素材本来の持ち味を生かし、保存料や香料等の添加物を避け、最もおいしい状態で召しあがっていただくことを第一に、菓子をつくってきました。 それが実現できるのは、良い菓子をつくるうえでの素材の重要性を理解し、手間をかけて生産してくださる方々の存在があってこそ。
日本の伝統的な食材を大切に育み、存続させたいという想いから、契約栽培の体制をとることや、コミュニケーションを密に図るなど、産地との連携を拡げています。
生産地とのつながり
安全でおいしい和菓子をつくり続けるために、虎屋は生産者の方々と「ともに歩んでいくこと」を大切にしています。天候や栽培方法、生産者の方々の働く環境など、様々な課題に対し、ともに悩み、考え、解決を図っています。また、製造部門などの社員が産地へ赴き、播種や収穫に携わらせていただく「原材料体験研修」を実施しています。ともに農作業を行なうことで、原材料の知識習得だけでなく、生産者の方々の苦労や、原材料の大切さを感じ取り、菓子づくりの意欲へとつなげています。一方で、生産者の方には虎屋の菓子づくりに対する想いを共有し、互いにより良いものづくりに向けて取り組んでいます。
小豆
小豆は「和菓子のいのち」ともいえる餡の質を左右する大切な原材料です。虎屋では風味が豊かで、色艶、舌触りの良い北海道十勝産のエリモショウズを使用していますが、作付面積の減少に伴い、その収穫量は年々減少しています。そのほかにも異常気象や生産者不足など、将来的な困難に備えるため、社員が産地の方々との密なコミュニケーションを図るほか、新しい品種の開発事業へ共同参画し、加工適性や味の調整の研究部分を請け負っています。
寒天
虎屋で使用する天然の糸寒天は、雨や雪が少ない寒冷な山間地である長野県伊那地方・岐阜県恵那地方の指定工場にて、厳冬期を中心に昔ながらの製法でつくられています。原材料である天草を煮て抽出した寒天液を冷やし固め、天つきと呼ばれる道具でところてん状に細長く押し出した後、氷点下の屋外にて凍結と乾燥を繰り返します。厳寒のなか手作業で行なう重労働のため、研修で訪れた社員は生産工程の過酷さを身をもって知ることにより、原材料への関心を深め、菓子づくりに生かしています。
黒砂糖
独特の風味が特徴の黒砂糖は、サトウキビの絞り汁を煮詰めてつくられたもので、ミネラル成分が多く、自然の恵みが凝縮された素材です。虎屋では、「沖縄黒糖」のひとつで、丸みのあるやさしい味が特徴の西表島(いりおもてじま)産の黒砂糖を、黒砂糖入羊羹「おもかげ」をはじめ、様々な菓子に使用しています。原材料となるサトウキビは、台風や強風になぎ倒されても、何度でも起き上がる強い作物です。しかし、倒されては起き上がる度に、いびつな形に成長するため、刈り取りや運搬、選別作業などに大きな負担を伴います。虎屋ではともに作業を体験することに加え、生産者の方々が苦労して育てられた黒砂糖が菓子の味に生きていることや、お客様が喜んでくださっていることを共有したいという想いから、黒砂糖入羊羹「おもかげ」の現地販売を実施。地域の活性化に少しでも役立つことを願っています。
安全と安心のために
品質管理
貴重な原材料を使い、どんなにおいしい和菓子をつくったとしても、それが安全なものでなければ販売することはできません。品質管理部門では、お客様に安心して菓子をお楽しみいただけるように、商品の品質を維持する役を担っています。
たとえば、原材料を仕入れる際、調達部門とともに産地を訪れ、原材料の生育・加工環境が適切かを調査することはもちろん、提出される安全保証データや自社でも行なう微生物検査を通し、その原材料に求める品質基準を満たしているかを確認し、安全な菓子づくりができるかを判断します。また、虎屋の製造環境そのものが衛生的であるか、日々生産される商品の品質が安定しているかを基準に照らし合せて確認し、維持することにも努めています。生産者や加工業者の方々との対話も大切にしながら、定められた「当たり前」のことを「当たり前」に行ない続けることで、安心してお召しあがりいただける菓子づくりに尽くしています。
研究
虎屋では経営理念である「おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂く」を実現するため、科学的な視点から、菓子や原材料の研究も行なっています。
たとえば、虎屋の菓子の主要原材料である黒砂糖は、生産地や製糖された年度により少しずつ味に違いがあります。研究部門では、生産者の方々と協働し、サトウキビの収穫時期や、製糖工程ごとの成分分析などを行なっています。それらを通して、黒砂糖特有のコクのある風味や、サトウキビに由来する香りの成分が分かってきました。このような研究の成果を菓子づくりに生かし、安定した品質の維持に努めています。そのほか、「和三盆糖の成分比較」や「安納芋の品質評価」といった研究も行なっています。
また、「品質向上に向けた工程・配合の検証」や「ヒトの五感による味や食感の評価法の構築」を行なっており、原材料の特性を、「おいしさ」につなげるため、科学的な検証や研究を行なっています。